モンスター顧客に大切な社員をつ ぶされないための組織・風土づくり

中小企業にもハラスメント防止措置義務が課されて2か月が過ぎましたが、モンスター顧客 から受ける所謂カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます。)への対策もしてお かないと、社員がメンタル疾患に陥って休職したり、離職してしまい、企業が大きなダメージ を受けることになります。そこで今回は、カスハラから会社を守るためにどのような対策をし たらよいかお伝えします。

1.カスハラとは
厚生労働省の「事業主が職場における優越的な関係を背景 とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置 等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」によ ると、カスハラを「顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、 不当な要求等の著しい迷惑行為」と定義し、事業主は、相談 に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮 の取組を行うことが望ましく、被害を防止するための取組を 行うことが有効である旨定めています。厚生労働省はカスハ ラ対策が急務として、「企業対策マニュアル」を策定しました。

2 .カスハラの影響
カスハラにより、社員にはパフォーマンス低下、健康被害、 恐怖心からくる休職・離職、企業には対応時間のロス、人材 確保、ブランドイメージの低下、他の顧客には利用環境の悪 化など、適切な対策を行わないと各方面に多大な影響を及ぼ し、業績が悪化するだけでなく、場合によっては倒産・廃業 に追い込まれる可能性もあります。

3.カスハラに関する企業の責任
使用者は労働契約法第5条により、「労働者に対する安全 配慮」が義務づけられており、適切な対応をしていない場合、 被害を受けた従業員から責任を追及される可能性があります。  適切な対策がとられていないために、被害を受けた従業員 からの損害賠償請求が認められた判例、十分な対策がとられ ていたことから企業の責任が否定された判例など様々ありま すので、機会があればご覧ください。
 企業の法的責任にかかる説明は別の機会にするとして、今 回は十分な対策をしておらず、大切な社員が、カスハラをきっかけとして貴社で働けなくなるような悲しい事態を招かな いために、どのような態勢を整えておくのがよいか、どのよ うな企業風土を醸成したらよいかお伝えします。

4.会社としての基本姿勢の確立
 「顧客本位」や「お客様第一」は営利企業にとっては当た り前のことですが、貴社の商品・サービスを購入する人は全 て「お客様」として最優先しなければならないのでしょうか。  それも一つの考え方には違いありませんが、自社のお客様 は誰かを明確に定めていますか。マーケティングの世界では 「ペルソナ」という言い方もしますが、自社のお客様が誰か を明確に定義していないと、営業戦略も効率が悪くなります し、悪質なクレーマーもお客様ですから理不尽な要望に対し て何でも言うことを聞かざるを得ないことになりかねません。  経営者にとっては勇気のいることですが、「お客様はこう いう人だけ」という方針を決められるのは中小企業ならでは のことと思います。
 自社のお客様を明確に定義しておけば、理不尽な要求があ った場合、それ以降の取引はしないという判断もできますし、 契約上いわれのない要求が繰り返されるような場合は、「こ の人は当社のお客様ではない。」と割り切れば躊躇うことな く弁護士や状況によっては警察にも相談しやすくなります。

5.一人の社員だけに対応させない体制作り
私は永年、民間事業会社において難事案等の対応をしてき ました。仕事の特性上、来る日も来る日も、自分がやったこ とではないことで怒鳴られ、罵倒され、場合によっては特殊 な業界の人たちに取り囲まれるなど、他の企業の営業や渉外 担当では考えられないような特殊な就労環境で、端から見れば心を病んでしまっても不思議ではない状況でありました。  しかし、私を含めて同じ業務を担当する同僚にはこの仕事 が原因で心を病んでしまう人はほとんどいませんでした。そ れはなぜか、いわゆるヘビークレーマーへの対応は絶対一人 ではなく、組織で対応していたからです。窓口は自分一人で すが、後ろには上司、同僚、そして弁護士や警察もついてい るという安心感があったから、たとえ脅されたとしても、そ の時は少しはダメージは受けましたが、すぐに回復して毅然 と対応できたのだと思います。
 会社をカスハラから守るには、上司、同僚も含めたチーム の役割分担を予め決めておき、後日の紛争に備えて対応状況 を録音・録画しておくことも肝要です。ヘビークレーマー対 応規程・マニュアル等も策定し、日ごろから関係社員間でレ ビューしておくと「有事」の際に有効です。具体的なマニュ アル策定にあたっては、厚生労働省のマニュアルを参考にす るか、カスハラ対応を得意とする近くの弁護士や社労士など に相談してみてください。

6.チームワークとチームビルディング
チームワークとはメンバー間で協力する意識を持って行動 することですが、ヘビークレーマーをカスハラに発展させな いために、きっちり役割分担をしてチームワークをもってあ たることはもちろん重要なことであります。しかし、いくら 対応マニュアルを策定し、その通りに対応したとしてもヘビ ークレーマーはどんな不測の行動、言動をしてくるかわから ないこともあるため、協力しようという意識だけでは十分対 応できないこともあります。そこで重要になってくるのがチ ームビルディングです。
 チームビルディングが重要と言われているのはビジネスや 技術の高度化により、優秀な人財でも個人が達成できる目標 には限界が生じてきたからです。複雑で多岐にわたる課題に 柔軟に対応していく方策として、個性があって卓越した能力 を持つメンバーが集まり、チームとして成果を上げることが 重要視されています。個人では達成できないことでも複数の 優秀な人財が力を合わせれば達成可能となります。まさにヘ ビークレーマー対応はその代表例であります。
 ただし、ヘビークレーマーをカスハラに発展させないため にチームビルディングに取り組みましょう。と言っているわ けではありません。

7. 組織風土変革
チームビルディングの目的として挙げられるのはチームの パフォーマンスを上げることです。チームを結成して互いの主体性を生かす組織作りを進めると成果が上がりやすくなり ます。メンバー個人のモチベーションの向上にもつながり、 組織の中でメンバーが自ら成長してくれます。さらに成果が 上がる組織力ができればメンバー同士の信頼性も高まるた め、チーム全体として効率的な働き方ができるようになりま す。
 ビジョンの浸透も目的の一つとして挙げられます。チーム がどこに向かっていくのかを明確にし、メンバー全員が主体 的に行動すれば目標達成に近づきます。
 チームビルディングには目的意識醸成の目的もあります。 ただチームが目指す方向性がわかっているだけでは、具体的 にメンバーが何をすべきか自主的に判断するのは難しいでし ょう。目的意識を明確にして達成を目指すマインドセットを 形成するためにチームビルディングを実施すると、メンバー が具体的な行動を取るになっていきます。
「チーム」を「組織」や「会社」に置き換えてみてください。 まさにこれが組織風土変革であり、組織風土変革によって、 会社の目標達成に向け高いパフォーマンスを発揮し、カスハ ラなど飲み込んでしまい、会社の成長・発展につながること でしょう。

8.経営者の思いと経営理念
チームビルディングは現場から自然発生するものではあり ません。また、経営者の指示によるものでもなく、経営者自 身が熱い思いをもって経営理念を語ることによってその一歩 が始まるのではないでしょうか。
 カスハラ対策の基本は、経営者自身の「会社を守る」とい う強い思いがベースになければならないということが言える でしょう。

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